続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「あゝ、荒野」前・後編

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2017年/岸善幸監督/304分(前・後編)

 

宿題だったので見られて良かったが、一日が終わってしまった・・・!前後編合わせてちょうど5時間の作品。おっちんも一緒に見て、まじでもうこんな時間?楽器の練習の時間がない〜!と焦っていた。

 

恥ずかしながら寺山修司の著作を読んだことがなく、その世界観をよく知らない。ちょっと不思議でエキセントリックなシーンが唐突に含まれていて、寺山修司ゆえの独特の表現がによるものなのだろうかな、と思いつつ見る。

 

けれどもこの作品、私は見られて良かったな。

まず、この物語の舞台である新宿という場所のリアルな魅力。暴力性をはらんだむきだしの率直さ、何でもあるのに何にもないという空虚な感覚。

 

テーマは「夜空はいつでも最高密度の青色だ」と近しい。

突き放したような孤独に自由な世界で、地べたに這いつくばるように孤独に生きる人たち。冷たくも優しい、臆病でいて行き当たりばったり、投げやりなくせに不器用で生真面目。

生きている意味が分からなくて、でもどうしても他者と繋がりたいという切実さを抱えて生きている。あなたや、私と同じように。誰もがちっぽけで寂しく必死だ。

 

新次と建二の得がたく美しい友情の結びつきと、彼らが暴力性とそれに相反する優しさや思いやりといった繊細な感情に引き裂かれながら、水際でしがみつくようにして生きているさまのひたむきさには胸打たれる。

 

「プロボクサーになる」という選択肢が、「まともになる」ことを意味しているというのは、平凡な人生を送っている自分にはなかなかうまく想像しにくい状況。でも新次と建二を見ていると、心情的にありありと迫る。根なし草なのに、どこにも行き場のないどんづまり感もまた。

長尺もあって、そんな違った世界の感覚にどっぷり浸れるのがこの作品の良さなのじゃないだろうか。

 

いずれにしても、この作品を引っ張っているのは二人の主役、とりわけ菅田将暉の輝きだ。「海月姫」の時も、誰だろこの人、光ってるなーと思ったけれど、本作の彼は素晴らしいな。燃えるような目と肌の白さが印象的だ。

 

新次の抱える生きがたさや社会との相容れなさ、それゆえの型破りの魅力が弾けるように表現されていて、はまり役と言っていいと思う。

どれだけ地味な格好をしていても、画面のどこにいてもはっと目を引く。「スケアクロウ」の若き日のアル・パチーノみたいだ。

良い意味で、どうあっても周囲より一段浮き上がってしまう強い魅力。ある人にはあるし、ない人にはどうしたってないもの。

 

不器用で心優しいヤン・イクチュンの演技も素晴らしかった。これまで見た吃音の演技のどれよりも自然だった。

主役二人の、命を燃やすようにしてボクシングと向き合う生きざまは、見るに値するものだと思う。

 

 

時代を2021年〜2022年の近未来に設定している。無意味な自殺が頻発し、街中で爆破テロが起こり、人々はなすすべなく希望を見失いかけている。

現在の日本をより極まった形で描いている部分に監督の思いを感じるが、政治的要素がいささか消化不良で、回収できていないストーリーラインが散見されたのが残念。やりたいことは分かるのだけど。

また、無意味なまでに多い場末感漂う濡れ場シーンの多さには閉口。子どもに見せぬよう、だーっと早送りして見なかったが、映画的には却ってそれで良かった感。