続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ゲットアウト」

ãã¹ã¿ã¼ç»å

2017アメリカ作品/原題 Get Out/ジョーダン・ピール監督/104分

 

このところの鬱々とした気分を吹き飛ばす文句なしの面白さ!あまりの面白さにすっかり機嫌が良くなってしまったくらい。

 

これが長編初監督のジョーダン・ピールは、アメリカではかなり人気のあるスタンダップ・コメディアン。人種差別ネタを含んだ、エッジの効いた笑いで知られる人物。

 

さすがにコメディの人だけあって、常に観客の呼吸を意識した絶妙の間、緩急のセンスの良いこと。最初から最後まで、ドライブ感が素晴らしくて、一瞬も退屈する暇がない。音楽のような作品だ。

そして何より、この映画におけるアメリカに深く根付く白人と黒人の問題に対する描き方がスマートで何とも皮肉が効いている。現代の知的でウィットに富んだカウンターカルチャーのあり方を一つ示した立派な作品だと思う。

 

取り扱う感情の質は、これまでになく言葉では表現しづらい、一歩踏み込んだ微妙なもの。でも、激しく「あるある」なのである。

自分のようなある意味遠い所にいる部外者においても、納得性を持って伝えるのがユーモアの力だし、コメディアンの持つ鋭い観察眼のなせるわざなんだろうなと思う。本当にぞくぞくわくわくする、インパクトのある無駄のない表現の数々。

 

また、DVDで見ると、特典映像で監督の解説付きの映像がいくつも見られる。それがまた更に面白い。監督一作目とはとても思えない。カットされたシーンに対する解説を聞くと、編集に対する的確な判断と引き算の感覚に驚く。シーンごとの意図が非常に明確で、曖昧さがない。

 

独りよがりになることなく、観客の心理と照らし合わせながらインパクトや緩急をつけていく、何を知らせて何を伏せておくべきかをジャッジする感覚が非常に優れていて、実に知的なエンターテナーなのである。うわー、今後の作品も楽しみすぎだ。

 

しかし、今更ながら、アメリカの俳優は層が厚いよなあ。500万ドル(日本だったら超大型だけど)の低予算映画で、キャスリン・キーナー以外は特別ビッグネームの俳優はいない本作だけれど、特に黒人俳優の演技の素晴らしさにははっとさせられるものがあった。

 

あの奇妙で絶望的な状況に置かれた「引き裂かれた」黒人たちの、なんとも言えない不気味さと違和感と哀れさを同居させた見事な演技がなければ、この映画の説得力も面白さも怖さも半減していたと思う。

 

スリラーは本来とても苦手で、避けて通る方なのだけど、この作品でスリラーというアプローチの持つ効果の意味がよく理解できた。

ただ怖がらせたり、煽ったりするということではない。

日常のすぐ隣にあるシュールな世界に迷い込む舞台装置を設定することで、より物語に深く潜り込みつつも、人間の本質をむき出しにひりひりと感じさせるリアリティーの感覚。

人の感情にいかに強い揺さぶりをかけるか、観客の想像力をいかに働かせるか、緊張と弛緩、恐怖と笑いのコントラストをどのように生かすか。

知的で緻密な思考が張り巡らされていてわくわくした。

同時に、変に思わせぶりにせず、賢さを気取らず、ストレートに表現すべきところはストレートにする率直さ、誰にも伝わる端的で無駄のない表現もすごく心地よかった。

 

うーん、隅々まで好み。