続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ジンジャーの朝」

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2012年イギリス・デンマーク・カナダ・クロアチア合作/原題 Jinger&Rosa/サリー・ポッター監督/90分

 

映画コラムの仕事で、エル・ファニング作品をまとめて見ることに。

昨日は子供たちは横浜へオーケストラのコンサート、だんなさんはこもって仕事。

私は洗濯物畳みつつ、見逃していたこの作品を見る。

 

うーん、良かった。かなり掘り出し物ではないかと思う。

サリー・ポッター自身の青春時代を投影したオリジナル脚本だけあって、時代感を伴った実感があり、1960年代のイギリス不穏な空気感がよく再現されていたと思う。

 

あまりに急速であやうい思春期から大人へ向かう少女の成長が、時代の緊張感を伴いつつストーリーはドラマチックに動いていく。

家族の問題と社会の問題とのはざまで主人公ジンジャーの柔らかな少女の心が痛めつけられ、追いつめられていくさまが繊細に描き出されていて見応えがある。

 

心に残ったのは、冒頭のシークエンス。散文的で言葉のほとんどないミニマルな表現が続く。青春の心象風景の映像ひとつひとつが本当に美しい。無二の親友と共に過ごす小さく安らかな世界。ずっとそのままでいられたら良かったのに。

 

やがて彼女らが美しく成長し、性と対峙せざるを得ないことでその調和は徐々に脅かされていく。そのやるせなさは引き金となり、少女たちは不透明で不穏な大人の世界へ不可避的に巻き込まれていく。

 

エル・ファニングの見事な存在感。耳目を引くのは、クライマックスの感情が爆発した、同時にすごくデリケートな泣きの演技だろう。それはもちろん素晴らしい演技なのけど、この作品は、ジンジャーという少女を通して女優エル・ファニング自身が成長していく過程がありありと画面に刻み込まれているということが何よりもすごいのだと思う。その奇跡のような重なり合いが、この作品をかけがえのないものにしていると思う。

作品では少女たちは17才という設定になっているが、撮影当時、実際の少女たちはエルが13才、ローザ役のアリスが14才だった。

 

自我が確立していない子供にとって、愛する人への全幅の信頼と依存によって世界は安定している。その心安らかな世界にずっと閉じこもっていたいのに、子供のままではいられない。

いろいろな人の感情をただ受け止め許容しようとするが、心から溢れ出てしまうものを持て余している。何もジャッジせずにじっと見つめる瞳にたくさんのことがただ映し出されている。そんなジンジャーを見ていると、胸が痛む。

 

子供の甘えといじらしさを感じる表現から、世界の不確かさや矛盾を知り、痛みと共に人を許すことを知り、大人としての自立の道を歩み始めるさままでが苦い成長として一息に描かれる。

そこには、自分自身を思い起こすようなひりひりとしたリアリティーがある。

 

ある意味、この作品はリチャード・リンクレイターの「6才のボクが大人になるまで」なのだ。

 

脇を固める役者たちも皆すごくフィットしていて良かった。「マッドメン」のクリスティーナ・ヘンドリックスもはまってた。相変わらずすごい胸だ・・・!

否定と肯定」でネオナチを演じていたティモシー・スポールの心の拠り所みたいな優しいおじさんぶりにも癒された。当時は太っていたんだなあ。

 

しかし、アネット・ベニングは出演シーンは多くなくとも、強烈な印象を残す。あらためてすごい名優だと思う。