続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「万引き家族」

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2018年/是枝裕和監督/120分/公開2018年6月8日〜

 

「ワンダフルライフ」も「歩いても歩いても」もすごく好きなんだけれど、私にとって一番思い入れのある是枝作品は、やっぱり「誰も知らない」だ。

初めて見たときは、結構な放心状態になったことを覚えている。

 

予想通り、本作の舞台設定や作品のトーンは「誰も〜」を想起させる。その時点でかなり偏愛ポイントに大きな加算がされてしまう。だから監督の「幻の光」も、石井裕也監督の「いつでも夜空は最高密度の青色だ」も好きなんだよなあ、やっぱり。

 

社会のルールから落っこちていて、世の中の要請に器用に応えることができなくて、ずいぶんわりを食っている人生。

でも、本当はそれさえあればいいんだというものを、不器用に手放さず、大事にぎゅうと抱きしめて生きているような人たち。

世のマジョリティーの人たちから、いないことにされているような声なき人たちの人生のいとなみをぐっと見つめた作品には無性に心惹かれてしまう。

 

今作では、安藤サクラが何しろ素晴らしいと話題になっていて、私もとても心動かされた。タイプキャストという予想を超えて、複雑で、真実味があり、きれいで汚くて。物語が進むにしたがって、どんどんきれいになっていって目が離せなかった。ビロードみたいな裸もすっごくきれいだった。

 

そんな彼女をはじめとした役者たちの安定感のある演技や、子供たちの存在の自然さはいつもながらに素晴らしく、作品の技術の高さと調和も終始心地良く、「誰も知らない」の進化形を見たという気持ちになった。

 

ずっと監督の作品を見続けて来た者にとっては、今作はチャレンジングな映画ではなかったかもしれない。けれど、ある種の人にとっては単純、予想通りと映るかもしれないが、映画作品としてのアラのなさや明快さを私は好ましく受け取った。

 

是枝監督は、近年は何はともあれ多作だし、着々と映画監督としての地歩を固めてきて、もう「本当はこうやりたいけどできない」というようなこともだんだん減って、やりたいことは全部やれるような感じにどんどんなってきてるのだと思う。

日本の役者は誰でも是枝作品に出たいと思うだろうし、技術スタッフだってそうだろう。

そういう充実した状況で、現時点でのベスト・適材適所で、良い素材(素晴らしいオリジナル脚本)で最高の料理をした、そういう作品だと感じる。

 

個人的に特に好きだったのは編集。この作品の編集は、リズム・緩急・感情のうねりのようなものが非常にスムースで、気持ちがずっと作品に寄り添ったまま見られたという感覚。唐突に海へ行ったり、父子で雪だるまを作ってみたり、というような下りは、やや唐突でキザ。でも、感情の流れの上では自然。そのシーンが、どういう感情を見つめているか。

細野さんの不安定でつかみどころのない、でもどこか楽観的でシンプルな音楽も良かった。

トラン・アン・ユンやエドワード・ヤンのような、じっとりとうなじに汗がにじんでいるようなアジアの作品らしい湿気が感じられる画も良かった。

 

 

 

また、是枝作品といえば「家族」、とりわけ「血のつながりは何よりも優先されるのか?」という問いについてとかく語られがち。 私は取りたててこの作品はそれを言いたい映画だったとは思わなかった。

わたしたちは今の時代にあって、何を見失っているのか。これから何をよすがに、どう生きていけばいいのか、というもっと深くて大きな難しい問いが心に浮かび上がって来た。同時に、心の奥深くにある温かい原風景を見た。

 

どんどんと許容範囲が狭まってきて、互いを責め合い、自分自身をも苦しめている非寛容な世界のありようが、物語を通して浮かび上がってくる。ごみ屋敷の一歩手前みたいな家でのいい加減で混沌とした万引き家族の暮らしは、殺菌されたみたいなモデルルームのような家での全てがおしゃれでこぎれいできらきらしたインスタ映えした暮らしと対極の世界。

こういう世界にあって、自分なりの中道をどこに置くのかということを考えさせられた。真実をかんたんに分かったような気になってはけしてならないということも。

 

 

自分の手には余る世界のやるせなさと複雑さ。自分のちっぽけさに途方に暮れるような気持ちになるのだけれど、同時に誰に何を押し付けられようが、どれだけシステムが彼らを損なおうが、けして奪えないものがあるということも見た。それは希望。

 

自分には何も分かってはいないが、知ろうとし続けること。人をばかにせず、答えを出さず、抱きしめて生きていくこと。

そのようにありたいと感じさせてくれる大事な映画だと思う。