続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」

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モード・ルイスは今から115年前に生まれたカナダ人画家。彼女の生きた時代は、日本で言えば明治から昭和中期にかけて、戦争を差し挟み、社会が大きく変革していった時代にあたる。そういう時代を、無欲に、身の回りを小さく照らすようにして生きたモードと夫エベレットの人生の営みを、美しいカナダの自然の中で静かに描いた作品。

 

重度のリウマチ持ちで、不自由な体を抱え、人々に疎まれる厳しい人生を送って来たモードにとって、絵を描くことは、唯一自由に心を羽ばたかせられる喜びだった。辛い人生からは想像もつかないほどシンプルで明快で、温かく可愛らしい夢の世界を描いた。

 

痛みと苦しみから逃れるように、人生の明るい面をひたすら見つめるように、夢の絵で身の回りを埋め尽くしていったのが、モード・ルイスの人生。

 

エベレットとモードの関係性を言葉で表現する事は難しい。サリー・ホーキンスイーサン・ホークがそれぞれの役柄を深く理解して演じており、脚本も細やかなので、とても納得性はあるのだけど、今の世の中の価値観に基づいた整合性や理解を越えた関係性は時には飲み込みづらくもあり、奥深い美しさをたたえてもいる。

 

人と人が結びつき、一生を寄り添っていくということは、出会いの奇跡の上に立った相互補完的なものであり、人がさかしく理屈でコントロールなどできないものなのだということをよく見せている。人が人と助け合い愛し合って生きていくということの難しさと素晴らしさがぎゅっと詰まっている。

 

そのうえで、モードがその可愛らしい絵に愛を込めて死ぬまで描き続けたことが、すなわち人生に愛を注ぎ続けるということと同義で、そのことが全てを凌駕して彼らの人生を祝福したのだという温かな感覚が残る。

ささやかで膨大な営みに、見る者は静かに圧倒される。

 

また、彼らが彼ららしく生きられたのは、お金によって、生きるうえでの優先順位をほとんど揺るがされることがなかったゆえだということも、さらっと描かれてはいたが重要なポイントだと思う。

 

当たり前だけれど幸せには形がなくて、本人が自分を幸せと思えるかどうかが全て。

今の世の中では、得れば、勝てば、今より幸せになれるかのようなさまざまなプロパガンダが溢れ返っているけれども、そういうものがみーんな、幻想に過ぎないのだということが、モード・ルイスを見ているとよく分かる。

 

モード・ルイスの絵のように、誰もが自分なりのささやかで可愛らしい方法で、人生に愛を注ぎ続けるやり方を見つけられるといいなと思う。

 

【みどころ】

サリー・ホーキンスがなにしろ見事だった。元々の彼女を少しも感じさせないほど、役柄そのものの人に見えた。イーサン・ホークもとっても素晴らしく、この夫婦のいじらしさと愛らしさが作品の屋台骨だと思う。

 

*美しく撮影されたカナダの大きな自然と、彼らの小さく静かな暮らしの対比。あんまり外にも出ないモードは、窓越しに恥ずかしげに外の世界を眺める。

彼女のいる小さな古びた家の内部は、カラフルでハッピーな絵で埋め尽くされていて、あたかも外見からは知りえない彼女の精神の豊かさのようで胸打たれる。

 

*私たちが現代の効率的でスピードの速い世の中で、見失っているものとは何かを教えてくれる作品。