続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「CAPTAIN FANTASTIC(はじまりへの旅)」

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DVDにて鑑賞。公開時、当然近隣では見られなかった訳だけれど、ほんとにもったいないことをした。すんばらしい映画だった。

去年見ていたら、2017年のベスト作品に入っていたなあ、これ。

どうして邦題が「はじまりへの旅」なんだろう。最後まで見ても分からず。

 

映画の最後、「CAPTAIN FANTASTIC」のロゴが画面いっぱいに出て、暗転してエンドロールに。そこでじーーんじーーんと胸がいっぱいになった。

これはやっぱり「キャプテン・ファンタスティック」でしか、ないよね。

 

監督はマット・ロス、俳優としての彼はうっすらとした印象しかないのだけど、長編2作目でこんな優しく美しく面白く、深みのある映画を撮った。自分が親としてどう子どもを育てて行けば良いのかと考えたことがこの作品の原点だと。やはりものごとは動機なんだと思う。

 

自分の子どもをどう育てればいいのか。親であれば誰もが思い悩むことだと思う。

特に今の時代は、テクノロジーやグローバリズムがすごい勢いで発達していて、5年前の常識が今も常識かだなんて誰も断じることなんてできない。あらゆるものごとがすごいスピードで移り変わって行く。前提すらどんどんと変わって行く。

そういう中で、大昔みたいに、じいちゃんばあちゃんや父ちゃん母ちゃんのようにやればいいんだ、という子育てが、全てではなくとも多くの部分で成り立たないという中で、誰もが多かれ少なかれ、迷い戸惑いながら子育てをしている。

 

私においても、自分だって相当未熟だってのに。そう思って、毎日とほほとなりながら、やぶれかぶれでなんとかやってきたこの15年だったと思う。

ベン(ヴィゴ・モーテンセン)みたいなワイルドさもサバイバル能力も知性も持ち合わせていないけれど、思想的には共感できるところが多く、「うちら、だいぶファンタスティック寄りだよね・・・」と言い合う夫婦。

 

かなり振り切れたその暮らしっぷり、冒険の数々と、社会とのぶつかり合いから生まれるコメディを面白く観つつ、何を大事に子どもを育てたらいいのか、何が自分と家族の人生にとって幸せなことなのかということをずっと考えている2時間だったと思う。

 

現代のありようを否定して自然に還れと言っているような、そんな単純なことではなくって、どちらの生き方もけして万能ではない。そして誰もが彼らなりに善くあろうと誠実に生きている。そういう優しいまなざしで全ての人を描いていることがとてもいいなと思った。

 

その上で、現代社会で幅を効かせている価値観やシステムに対して、全面的に参加する気持ちは自分の感覚としてはやはり持てないし、社会から受けている恩恵に感謝しながらも、それらに呑み込まれず真に受けず、一つひとつ小さなことを真剣に選んでいくしかないんだなと噛みしめるみたいに思った。

 

 

ヴィゴ演じるベンは、とても複雑で魅力的なキャラクターで、彼に対する自然な共感を抱けることが、この作品を納得性のあるものにしていると思う。

彼は信念のひとであり、相当すごいことをやってのけるんだけれど、同時にどうにもならない壁に打ちのめされるひとでもある。

 

理想の暮らしを実現したはずなのに、6人の子どもの母親である妻は、精神を病んで自殺する。義父をはじめとしたいわゆる「まっとうな」人々は、「お前のせいだ」と責める。

子どもたちは素晴らしく精神と肉体と知性を発達させるが、社会との関わりがほぼないために、周囲の人の話にほぼついていけない、天然ぶり。

 

ベンは、他の考えを持つ人々や、異なる価値観を持つ社会を憎悪している訳ではないのだけれど、彼の正しいと思うことと社会があまりにもかけ離れているので、折り合いをつけることはとても難しい。

また、違う価値観を持つ人は、彼らを放っておいてはくれない。

正義感・モラル・常識といったものを盾に、彼を何とか変えさせようとする。

 

子育てに限らず多くの場面で、マジョリティーは同じ考えでない人に敵意を抱きがちで、その敵意を敵意と認識せず、正当な思いやりだとさえ思ってしまいがちだ。誰にも、自分にもあるその感情の芽には、よくよく気をつけないといけないと思う。

 

物語はどこに辿り着くのか。ファンタスティック父子の、一本筋の通った、気合いの入った冒険は、エキセントリックでチャーミングで、胸がわくわくと躍る。

そして、その純粋さを見事貫いて、みんなで力を合わせて母親を、母親の望んだ通りの形で埋葬するこの映画のクライマックスと言えるシーンは、この上なく美しい。

 

「Sweet child O'mine」はこんなに美しい切ない曲だったんなだと目を開かされるような素晴らしいファンタスティック子どもたちによるカバー。涙が出た。

 

 


Captain Fantastic - Sweet Child O' mine Cover

 

この先も何度も見返したいお気に入りの1本。