続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ドリーム」

『ドリーム(原題:「Hidden figures」)』鑑賞。

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良い映画だった。今の時代にとってもとっても必要な、希望の物語。

惜しむらくは凡庸な邦題。埋もれてしまってもったいない!

 

監督のセオドア・メルフィは、NY出身のアメリカ人で白人。ビル・マーレイが偏屈おじさんを演じた「ヴィンセントが教えてくれたこと」の監督でもある。CMディレクターとして長くやってきた人らしい。

 

たしかに作り手として、作家的ではないと思う。「ヴィンセント〜」と同様、「ザ・ハリウッド映画」のストラクチャーをきちんと踏襲した、すごく明快に整理された、誰にも分かりやすい、無駄のない映画作りだ。すごく質の高い職人仕事を見せてもらった、という後味を残す。

 

どちらかというと、そういうソツのないものは一所懸命見る方ではないんだけれど、これだけ細部にわたって丁寧でクオリティーが高いと、そして演者をはじめとした関わる人たちがこの仕事に意義を感じ、高いモチベーションで仕事していることが伝わると、アメリカらしい明るいエネルギーを持ったこういう映画はやっぱり素晴らしいなと思って感心してしまう。

 

さまざまな差別意識が世界中で拡大している、寒々しい、非寛容な空気感が広がる今の世界にあって、たった数十年前の、今見ると呆れてあんぐりしてしまうようなナンセンスな、そしてあまりにもひどい差別の中で、たくましく、誠実にサバイブしてきた3人の黒人女性の生き方を描くことの意味の大きさ。そしてそれが「実際にあった話だ」、という問答無用の強さ。

勇気づけられ、「自分なんてまだまだだ。がんばろう」と励まされ、スカッと胸をすくようなブレイクスルーに拍手喝采。どれだけ多くの人々が、明るい希望にひととき高揚し、前向きな力がもらえたことか知れない。

 

物語の舞台は、アメリカとソ連が熾烈な宇宙開発競争を繰り広げていた1960年代のNASA。当時のNASAは国家のプライドをかけた闘いの本丸のようなエキサイティングな場所。その時代ならではの国家レベルの宇宙計画が成功するかどうか!といった要素も絡めながら、アメリカの世の中がじりじりと変わっていくさまを同時に描く。エンターテインメントとして単純に楽しめる映画らしいどきどきわくわく感と、シリアスな人間ドラマが説教臭くなく同居している。ロマンスも上手に織り込む。こういうのやっぱりアメリカ映画は本当に上手い。

 

本国アメリカでは、劇場の中で何度も歓声が起こっていたんではなかろうか。

例えば、キルスティン・ダンスト演じる嫌みな白人上司が、

「誤解しないでね、偏見は持ってないのよ」と急にいい人ぶった言い訳をぶった時に、

のちにNASA初の女性黒人IBM室長になったドロシーは、呆れて目をまん丸にしたまま、クールにこう言うのだ。

「ええ、分かっています。あなたがそう『思い込んでいる』、ということは。」

私も思わず声を出して笑ってしまった。

あと、ドロシーが部下の黒人の女の子たちを引き連れて颯爽と列をなして、黒人専用の計算室から最新鋭のIBMを操る部屋に軍団で移動するシーンとか(笑)。んふー、ベタとはいえ、スカッとしたなあ〜。

 

当時の社会背景も丁寧に描かれており、黒人がいかにして人権を地道に勝ち取ってきたかについて学ぶところが多い。彼らがどう考え、どういう意識をもち、どう行動したかということ。今の世の中においても、学ぶところがたくさんあるはずだ。

 

バスで悠々と座る白人たちの後ろで、後部座席に押し込められて移動したり、白人専用の図書館や学校を歩いているだけでじろじろと眺め回されたりする様子、その何も悪いことをしていないのに居心地の悪い思いを強いられる感覚は、映画では一瞬で体感できてしまう。どんな教科書よりずっと雄弁だと思う。

 

また、虐げられていたからこそ、黒人社会に温かい団結があったこと、利己主義的でなく「黒人皆で良くなって行こう、ひとりの成功は皆の地位を向上させる」という意識で助け合っていたこと、豊かな地域コミュニティーがあったことなども同時に描かれていることも興味深かった。

 

主演の3人をはじめ、黒人のキャストたちが輝いている映画だった。黒人をはじめとした、今の世の中に問題提起をしたいと思っている全てのスタッフが、大きな意義を感じながら、生き生きと映画を作ったということが画面から伝わって来る。

 

醜いものに呑み込まれそうになるけれど、したたかに、ユーモアを持って切り抜けて行くんだ、そうやすやすとは思い通りにはさせないぞ。そういう心意気を感じる。

アメリカがんばれ!私たちもがんばろう〜。

 

 

そして、見終わってもう一つ考えたこと。

自分が天才や問答無用に秀でた才能を見るのが好きなのは、それが陰謀や忖度や策略といったあらゆる「ズル」を軽々と飛び越して行くからだ。実に明快で清々しく、その突破力は誰も叶わない。

そういう物語は世の中に溢れている。この作品に出て来る3人の黒人女性たちも、周りの追随を許さない賢さでもって自らを認めさせられるほどの知性の持ち主だった。

 

それはもちろん素晴らしいことなんだけれど、

じゃあ、秀でたものが特にない人間には、その資格はないということなんだろうか?

 

そのことに対する有効な答えが、明らかに世の中には不足している気がするんだ。すごい人を称えるもの、そこに自己投影することでひととき希望を得たり、あるいは現実逃避することがいけないわけではないけれど、もうひとつ踏み込んだ、見た人の心の底にふつふつと自信の炎がともるような世界の物語がもっとあって欲しい。だんなさん、作っておくれ、とハッパをかけた。

 

 

長々と書いた末に、最後にひとつ。

マハーシャラ・アリ

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「ムーンライト」でも、この作品でも、出演箇所が少ない脇役だったのに、心わしづかみや!

「ハウス・オブ・カード」で初めて見て、すごく印象深い人だなと思っていたら、あれよあれよだ。

存在感も、そしてフェロモンもすごいことになっている。なんと華のある俳優なんだろう。若い時のデンゼル・ワシントン超え。

この作品では、女性みんなの夢の男性を演じた。こんなにも落ち着いていて、セクシーで、成熟した男性・・・。いやいや、こんな上手い話あるわけないやろ!と突っ込みたくなるほどに完璧な王子様ぶりだった。素敵だったなー。