続・みずうみ

小さく平凡な毎日の中で、自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「禅と骨」

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今年の暫定No.1ドキュメンタリー。

すごいものを見てしまった、という気持ち。

もう、昨日はずっと機嫌が良くなってしまい、夕飯のおかずを多めにさくさく作ってしまったことだった。

 

予告編を2度見ても、さっぱり何の映画やら分からず、2時間超えの長尺もあってだいじょぶだろうか・・・とちょっと不安を抱えながら映画館に足を運んだのだけど、ぐあーまじかーーでもこういうものが見たかったー!と感激するといううれしい誤算。エンドロールでは思わず拍手した。

 

再現ドラマパート、アニメーションも織り込んでいるという作りで、収拾つくんだろうかこれ、と思っていたのだけど、とても効果的に上手に織り込んでいたと思う。

監督がどんだけ頭をかきむしりながら素材をとっかえひっかえしつつ編集に取り組んでいただろうかと想像するに余りある。

ウェンツ瑛士、良かったなあ。すごく良くはまっていた。彼自身もハーフとしてのアイデンティティクライシスを抱える存在であるというシンパシーは当然あったろうし、そういう屈託と同時に彼の本質的な素直さや清さみたいなものが映画を救っているように感じられた。余さんは、予想通りの安定感。ヘンリの心に生涯十字架を植え付ける存在である母をさすがの説得力で見せてくれたと思う。

ドキュメンタリー部分は、当然しようがない部分もあるけれど、あんまり撮影は良くなかった(しかもここ数年のカメラの進化を改めて感じた)けど、ドラマ部分は時代感も含め、すごく美術なども丁寧に作り込まれて撮られていて好感がもてた。

 

惜しむらくは8章立てという冗長さ。面白く見ながらも、あまりに細かくシークエンス分けすると「どこまで続くか」「着地点はどこか」と我に返ってしまう瞬間があった。けれど、思いが溢れてこれも言いたい、これを抜きにはできんだろう、ということでどんどん建て増しするみたいに構造が増えていったんだとしたら、愛情ゆえのことだからそれもそれと思う。

 

人間が他人や社会と関わりながら生きて、やがて死んでいくことのすさまじさに圧倒され続ける時間だった。よその知らない人から見ればただ平々凡々と死んでいった自分の身近な人々のひとりひとりが抱えている業の深さを思い、気が遠くなった。

人はほんとうに罪深いし、可愛らしいし、つまらぬことにこれほど人生を浪費してしまうのだし、自覚せずなりゆきでどれだけすごいこともやってのけてしまう生き物なのだと思う。

 

自分がどうしてそれに取り憑かれているのか、本人だけがどうしても気がつけなかったりする。それはヘンリ・ミトワの場合「罪悪感」であり、この感情が彼の人生を最後まで支配した。彼を取り巻く恵みや善きものにある意味ではあくまで盲目だった。あたかも贖罪のようにかたくなに。

そして、それらの事を全部見抜いて飲み込んで悠々としているヘンリの妻、でかいなあ、救いだなあ、と思った。

 

一番彼に近い家族や身近な人は振り回され、大きく損なわれ、そこには取り返しのつかない許しがたいことも含まれる。しかし彼自身もまた、時代や身近な人々に大きく損なわれてきた末に今の彼がある。

私自身も誰においても多かれ少なかれそうなんだと思う。良い影響や恵みもある反面、そういううんざりするような連鎖も必ず人にはついて回る、そこから逃れることはできない。被害者であることからも、加害者であることからも、全ての人は逃れられないんだな、と思った。

 

ヘンリ一家のメンバーが人間味ありすぎて、問答無用の説得力がある。特にヘンリ自身としーちゃん、あまりにパンチが効きすぎて、チャーミングすぎる。

言ってることとやってることがばらばらで、きれいごとを全部きれいに吹き飛ばす破壊力のある人々。一人の人間について、他人がそんな簡単に分かったように言い切れるもんじゃないよ、と言われているようで実に爽快だった。

 

見終わった後に、カレーとシーザーサラダのランチを食べながら、一緒に見た友だちに感想を尋ねると、

「うちの家族の話しかと思った。とてもひとごととは思えない」

という、さらにパンチのある一言。自分なんてまだまだだ、と深く心に刻む。