続・みずうみ

小さく平凡な毎日の中で、自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

いっちゃんのこと

今日はデイサービスの日。今日の献立は、秋鮭のバタームニエルタルルソース添え、蒸し鶏ときゅうりの中華風和え物、長いものわさびじょうゆ、じゃがいもとたまねぎの味噌汁、じゃこと竹輪と紫蘇の混ぜご飯、すいか。

 

朝道が混んでいて到着が少し遅れ、作業が押してしまった。加えて流動食に近いくらい細かくしてあげないと食べられない道子さん、歯茎しかない(土手噛みという)トヨさんの為に、おかゆを別炊きにし、おかずが出来上がってから細かく刻んだりフードプロセッサーにかける一手間に結構時間を取られる。

それでもなんとかかんとか出来上がってほっとした。

 

きょうの職場はぎすぎすムードで、ともちゃん夫妻がだんなさんが一方的にけなされてる状態はまあいつもなのだけど、いっちゃんがかりかりしていてともちゃんに当たっていて、ともちゃんも地味にやり返したり、色々微妙な空気感だった、笑。

 

いつもはとても気持ちのいい職場、でもたまにこういう時がある。でも、私は人間臭くていいなと思うのだ。

 

先日読んだ本の中でも、「ディア・ドクター」を監督した西川さんが、辺境地の医療に従事する医者を取材した時のことについてこう言っていた。

『慣れに対するジレンマはよく分かります。はた目には地域のお年寄りのため、日夜がんばって、すごくえらい人みたいに思われるけど、人間ってそんなもので満ち足りるほど自分を殺せないのだろうと思います』と。

 

誰しもそんな聖人君子みたいに生きられないし。ほんとに二人がお互いに安心して甘え合っているからこそ、あんな風にけんかもできるのだよなあ、と見ていて思うし。

 

ともちゃんはいつも朝のおしゃべりの時間の中で、雑談の中でさりげなく色んなテーマを決めてひとりひとりの意見を聞く。お年寄りは色々我慢したり遠慮したりしているから、ダイレクトに「何かありませんか」なんて聞いても、大丈夫大丈夫、としか言わなかったり、認知症の人も多いからおんなじ愚痴や家族の悪口だけ繰り返してたりするのだけど、そういう一見関係のないトピックについて話す中で、その人の価値観や心配事や辛く思っていることなどが意外によく見えて来る。何より脳みそを使って考え、ちょっと緊張感を持って言葉を発するということがお年寄りの日常にはないから。ここに来る人は、来ない日はテレビ見ながらずーっとぼんやりしてる、という人が多い。

 

それで今日は「これって贅沢〜!と思う事って何ですか?」ということと、「自分の好きなところはどこですか?」ということをひとりずつ喋っていった。

ともちゃんの人間力は普段からようく分かっているけれど、今日も彼女らしいなかなかいいポイントを相変わらずついてくるよなあ、と感心しながら作業をしつつ聞いている。

 

色んな答えがあって、そしていっちゃんの番になった時、彼女が自分の好きなところを冗談でもひとつも話せなかったことに小さく驚いていた。

切なかったなあ。私から見たらなんとすごい人なんだろうと思うのに。

 

どうしてだろう、私の大好きな人たちほど、自分を取るに足らぬもののように思っている。

それは、世の中で賞賛されている、情熱大陸に出て来るような「すごい人」って、たしかにすごく面白く興味深いけれど、飛び抜けて偏ってるだけだよね、と思う自分の価値感のせいもあると思う。何かに飛び抜けて秀でていることって確かに素晴らしいことだけど、他の部分を他人に丸投げしているケースがほとんどで、私にとってはその「丸投げ」の部分をちゃんとやれることのほうが、正直言ってすごいことのようにも思えるのだ。

何かに秀でていることよりは、小さな日常を支え、明るく照らすことの偉大さを年を取るほどに思うようになっている。

寄る辺ない、時には家族にさえ邪魔にされていることもある、この世知辛い都会に住み死に向かう人たちを、本当に可愛いと思い、抱きしめるように向かい合っているいっちゃんのすごさに、何度圧倒されたか分からない。

 

しばらく前も、死ぬ2日前の、体から全部液体が出て行っちゃう状態のおじいちゃんを、すごい臭いも放っているのに少しも嫌がらず、むしろ悔いなく一緒にいたいという思いでぴったりと寄り添ってにこにこしていた。

私など、あまりの死の気配の濃さに近付き難く、おそるおそる手を取る程度だったのに。

とらさんはもう、朦朧として何も分からなくなっていただろうけど、どんなにか安心だったろうな、と思って。

亡くなった時もその事を思い、最後にいっちゃんがそばにいて良かったね、とそのことに涙したくらいだった。

 

自分も良くないことだけど自己評価は低いほう。でも私には「自信満々の人って好きじゃないんだ」と言ってくれるだんなさんや、暑ーい、あっち行って!と言ってもぎゅうぎゅうひっついて来てくれる可愛い子どもたちがいることが大きな救いになっていると思う。

 

いっちゃんは友だちは多いけど、でも今の仕事は忙しすぎて、多分仕事しかしてないし、そういう中で一人で頑張っていて、ほめてくれる人多分いなかったよね、と改めて思う。私は特に親しくもない、単なる同僚でしかないけれど、言ってあげたいあなたの素敵なところはいっぱいあるよ、と思いながら味噌汁を作っていた。

 

来月いっちゃんは誕生日。アイスクリームが何よりも好きな彼女に、こないだ東京で見つけた、おしゃれなストラップにもなる!携帯用アイスクリームスプーン(指先の温度でスプーンが温まり、アイスがすくいやすいやつ)をプレゼントしてあげようと思っている。